経済トピックス【2006年4月】

 

高速鉄道が長江デルタ地区を一体化する構想

 

 各都市間での関係がますます密接になり、大きな経済圏を形成しつつある長江デルタ地区。その中核として、国際都市上海の役割はますます堅固になってきているが、長江デルタ地区各都市間の交通は、交通量の増大と合わせて早急に解決しなければならない問題になりつつある。今回は、高速鉄道の観点からスポットを当ててみたい。

 

1.上海−杭州リニア構想

 

 20063月、中国国務院が上海−杭州間にリニア線を新たに建設することを批准した。すでに浦東国際空港から地下鉄2号線竜陽路駅まで建設されているが、それが延長され万博エリア、上海南駅、虹橋空港を結ぶルートが検討されている。上海市政府は、まだ正式なルートを公表していないが、このプロジェクトは現実味を帯びてきた。2005年の段階では、リニア線に関してはプロジェクト中止もささやかれていたが、昨今の上海−杭州間の往来を考えると、建設する必要性が一気に高まっている。

 当初20063月に発表された計画では、2008年開通となっていたが、その後の発表で2010年の上海万博までに間に合わせる計画となっている。工事は2006年内に着工で、総延長175キロメートル、総工費350億人民元の大プロジェクト。すでに浦東国際空港から地下鉄2号線竜陽路駅までの路線で実績のあるドイツの技術が使われる。最高時速450キロ、市街地での最高時速200キロが当初の計画で、上海−杭州間が現在の鉄道の半分の時間の30分から40分で結ばれる。途中の経由地は、上海エリアを出ると、「粽」で有名な嘉興、そして終点の杭州東となる。嘉興では、早くもリニア開通をもくろんだ投資活動が活発化しだしている。

 上海エリアの開通により、これまで蘇州・南京など江蘇省エリアとの結びつきが強かった上海の経済圏に対して、杭州など浙江省エリアとの結びつきが強化されるものとみられる。一方で、上海−南京間のリニア線建設の可能性は、上海−北京の高速鉄道建設の関係で、否定されている。しかし、今回のリニア技術が成熟してくれば、華南の珠デルタ地区や天津・北京・渤海などの経済地区にリニア技術が導入される可能性がすでに指摘されている。

 

2.北京−上海の高速鉄道構想

 

20063月、上海―杭州リニアとほぼ同時に国務院から批准をうけたのが、上海−北京間の高速鉄道構想だった。この路線に関しては、過去10数年にわたり、リニア方式か鉄道方式かで激論が繰り返されていた。また、日本・ドイツ・フランスが各国の鉄道技術の売り込みに必死だったのも記憶に新しい。しかし、20063月の中国発展開発委員会交通運輸司の発表によれば、鉄道方式が国務院の批准を受けたことになり、時速300キロクラスの高速鉄道が採用されることが正式に決まった。

北京−上海間の総延長距離は約1320キロ。運行速度は時速300キロで計画されている。投資総額は1400億人民元だが、鉄道方式にするとリニア方式の半分のコストで済み、10年以内での投資回収を目標としている。その結果、北京−上海間の所要時間は現在の直通寝台特急の11時間台から、5時間台に一気に短縮される。また、運転間隔も最高4分間隔まで縮めることが可能であるとされており、毎日100120往復が運転される見込みだ。現在でも、北京−上海間の夜行列車は予約が難しい状況であり、高速鉄道が実現すると、日本の東海道新幹線並みの波及効果が予想される。さらに、鉄道の場合、航空便に対しても50%60%の運賃で利用できる計算で、空港までのアクセス時間などを考えると、鉄道による優位性はきわめて高いことになる。

中国は、この上海−北京間の高速鉄道に関して、国産技術の大幅導入を検討している。すでに、中国国内の多くの路線では、国産化率70%以上の技術で、最高時速160キロの特急列車運転を実現している。しかし、まだ完全国産化まではかなりの道のりがあり、近年やっと国産機関車で、時速300キロを達成したのが現状だ。そのため、上海−北京間の高速鉄道では、最低70%以上の技術で国産化することが当面の課題となっている。

 

3.  期待される長江デルタ地区間の高速鉄道輸送

                   上海近郊の在来線でも電化工事が進む

上海を中心に、杭州・南京を結ぶ路線で、現在電化工事が急ピッチで行われている。中国では、現在、上海を中心とした半径300キロのエリアを高速鉄道で結ぶプロジェクトが着々と準備されている。すでに、中国発展改革委員会の批准を受けているこの高速鉄道網プロジェクトだが、ここでいう300キロエリアというのは、上海から江蘇省南京・淮安、安徽省合肥、浙江省金華などが含まれ、いずれも上海から3時間以内で結ばれることになる。人民日報などにも、この長江デルタエリアにおける高速鉄道網の特異性について述べられており、政府中央が上海を中心とした新しい交通網整備に力を入れている様子がよく分かる。すなわち、現在のような停車時間が長い無駄の多いダイヤ構成から、地下鉄のような6分から10分に1本のダイヤ、秒単位の停車時間、10キロ単位の駅間など、旧来の中国の鉄道網にはない新しい試みが次々と導入されるわけだ。これら総延長3000キロの高速鉄道網計画が完成するのは2010年と見られており、現在江蘇省南部など鉄道が十分に開通していない長江デルタエリアにも大きな経済効果が波及するものとみられる。

11次五ヵ年計画では、すでに具体的な計画が盛り込まれている。これからの5年以内に、上海−蘇州−無錫−鎮江の線と、10年以内に常州−江陰−常熟−蘇州、蘇州−嘉興、杭州−寧波の各線が建設される。現在、中国の東海道線とも言える主要幹線、上海−北京線は貨物、旅客ともに飽和状態になっており、工事は緊急性を要している。

巨大ターミナルとなる上海南駅はこの先にある

日本では、奈良県や三重県から大阪府への通勤・買い物など、他府県からの日常的移動は当たり前になっているが、中国ではまだまだ実現されていない。上海市など都市部での不動産価格高騰にともない、これら高速鉄道網完成によって、近い将来には浙江省・江蘇省から上海市への通勤など新たな人の移動を生み出す可能性は十分に考えられる。(以上)

 


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