フォーカス戦略で成功する上海進出日本企業
1資金回収の問題、厳しい競争、特異な商習慣等のため、とかく「中国での国内販売は難しい」と言われるが、最近では国内販売を行う日本企業の中にも「成功企業」といわれる事例が見られるようになってきた。
上海での成功日本企業としてマスコミ等でも頻繁に採り上げられているものとしては以下のものがある。
TOTO:最初の工場設立は1994年だが、中国への進出は1979年に北京の「釣魚台」へ便器・洗面台・浴槽を納品したことに始まる。以来、高級ホテル・オフィス等を中心に販売を進め「衛生陶器の最高級ブランド」としての地位を築く。中国の衛生陶器の年間総需要は五千万個といわれるが、高級衛生陶器の需要二百万個のみをターゲットとし、この高級層において2001年に33%のシェアを獲得するに至っている。
伊勢丹:1993年に上海のファッションのメッカ、淮海東路上にオープン。販売ターゲットを上海の所得上位5%に定め、日本式サービスを導入した。開店以来業績は好調で、上海では2000年前後に外資小売業乱立とその後の撤退ラッシュが起こったが、その際も難なく生き残った(その後、1997年に2店目を南京西路にオープンしている)。
ダイキン工業:中国の家電業界は競争が厳しく、エアコンでは毎年数10%にもなる価格下落が生じているが、ダイキン工業は業務用マルチエアコンに全精力を注ぎ込み「高くても良質のものを買いたい」層に対して販売を行うことにより他社の競争とは無縁の展開をしている。同社の製品は中国企業製の約4倍、日系他社と比べても2倍近く高い商品となっているが、それでも販売は極めて好調で、粗利率は推計で50%に達する。
サントリー:ビール事業では1984年に連雲港に進出し、10年間赤字続きだったが、その間に積み重ねたノウハウを元に1995年に上海進出。他の外資ビールメーカーが高級ビールに特化する一方でサントリーは大衆向けビールを売り出し大成功した。現在では上海ビール市場で44%にもなるシェアを有する。飲料事業では1995年に進出、「中国人は冷たい茶飲料など飲まない」といわれる中で烏龍茶を投入した。蓋をあけてみれば上海女性のダイエット嗜好などともマッチして大ヒットとなった。中国の「茶飲料市場」の先駆者である。
キリンビバレッジ:1995年に無錫、1996年に上海に進出し、前者では炭酸飲料(キリンレモン)、後者では果汁飲料を生産したが、競争が厳しく苦戦を強いられた。しかし2001年に投入した「午後の紅茶」が大ヒット。午後の紅茶やそれに続く「生茶」等の販売では日本でのテレビ広告をそのまま中国でも放映し、それにより上海人の心を捉えることに成功した。
これらの企業に共通しているのは、一言でいえば、「ニッチマーケット(隙間市場)」に参入したことである。
TOTOや伊勢丹は、上海の巨大マーケット全体を相手にしようとは考えず、富裕層のみをターゲットとした。所得上位5%をターゲットとしても、上海市だけで1300万人ほどが住むので、65万人、すなわち熊本市なみの人口を対象として商売していることとなる。富裕層に絞り込むことにより中国企業との競争を避けることが可能となる。また、富裕層は商品に対し最低限の機能では満足せず、付加的機能(大排気量エンジンの自動車、ウォシュレット付きのトイレなど)や付加的サービス(販売時のサービスやアフターサービスなど)を求め、さらに、耐久消費財などその商品がステイタスに直結しやすいものならば、ブランドイメージも購買の重要な決定要因となることから利幅を大きくとることが可能となっている。
ダイキン工業は富裕層にターゲットを絞っているわけではないが、最高級品のみの販売に絞ることによって、やはり中国企業との正面からの競争を避け、かつ付加価値の高い製品販売を行っている。
富裕層への絞込みが成功への近道であるのは、そこにライバルが少ないからであり、既に多数の企業が存在しているのなら富裕層への絞込みを行わず、他のマーケットを探すべきである。1990年代に外資ビールメーカーは挙って高級ビールを販売したが、外資メーカー間での競争が厳しく誰も利益を出せなくなってしまった。他方でサントリーは大衆層に絞込んだ。大衆層を対象としたメーカーに強力なものが無かったことから大成功に至ったのである。
サントリーの烏龍茶は、それまでは存在しなかった「茶飲料市場」というニッチマーケットへの絞込みの事例である。炭酸飲料市場ではコカコーラとペプシコーラが激しい競争を繰り広げ、果汁飲料市場も台湾メーカーなどが多数参入していたが、他社が思いつかなかった(もしくは思いついても躊躇していた)茶飲料市場には隙間があったのである。キリンビバレッジの「午後の紅茶」については、「茶飲料市場」の中に、さらに「紅茶飲料市場」というニッチマーケットを見出した例である。
今の上海にはニッチが増えてきていると言うことができるだろう。給与は月給1500元程度の人が最も多いが、外資企業に働く人ならその2〜3倍の給与を得ているし、年収で1000万円を超える会社経営者もでてきている。以前ならウォシュレット付きのトイレなどには見向きもしなかっただろうけれども、今は高所得者層を中心にTOTO製品が売れるのである。金持ちのニーズが一般の上海人のニーズと大きく異なるのは当然だが、そのニーズを満たす商品やサービスが上海にはまだまだ少ない。
以 上
2003年7月
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