経済トピックス【2003年06】


SARSの経済への波及

5月24日、外務省の渡航情報、「香港への渡航の是非を検討して下さい」が「十分注意して下さい」に引き下げられたことを契機に、日本でのSARSへの懸念もやや和らいできた感がある。中国駐在員を一時帰国させていた企業も中国へ戻すことを検討し始めたようだし、中国出張を解禁した企業もある。カナダでまた拡大しつつあるのが懸念材料だが、北京での新規患者数は大幅に減っており、今後数ヶ月のうちに大陸中国の企業活動や社会生活はほとんど正常に戻るのではないだろうか。

今後の心配の中心はSARSの経済に与えるインパクトに移っていくものと思われる。天安門事件の直後には、それまでの高成長が一気に落ち込んだ例がある(GDP成長率でみれば、1988年の11.3%から1989年・1990年ともに4.2%にまで落ち込んだ)。今回も想像以上の悪い影響が出ないかと懸念されるのである。

既に統計にその兆候が現れている。中国国家統計局によると4月の中国の成長率は8.9%となり、第1半期の9.9%より1ポイントも鈍化した(注1)。SARSの影響を受けた後の経済成長予測が中国の内外より出されている。各予測にはSARS収束の時期などに種々の前提条件が付されているのだが、押並べて言えば昨年の8%から1ポイントから2ポイント程度のGDP成長率の低下を予測している。2.8ポイントの予想をしているシンクタンクもある。
(注1:上海市については12%増と第1四半期の11.8%よりも高い伸びとなったが、同市でSARSへの懸念が高まったのは4月末に北京の新規患者数等の数値が大幅修正されてからなので、同市への影響が本格的に現れるのは5月以降と考えられる)

上海市内の状況を見ただけでも、商店への出足はかなり落ち込んでおり、消費の大幅な減退が生じているのは明らかである。消費を示す指標の社会消費品販売総額を見ると、4月は前年同期比7.7%増で、第1四半期の9.2%増から大きく落ち込んでいる。中国には旧正月、5月1日のメーデー、10月1日の国慶節(建国記念日)の前後に1週間程度の大型連休があるが、これはそもそも1997年頃の景気後退期に消費の起爆剤として導入されたものである。この時期は旅行やショッピングにより消費が大きく伸びるのが常だったのだが、今年のメーデーの休暇期間に関しては旅行の自粛が命ぜられ消費の伸びは全く見られなかった。よって5月の落ち込みは一層顕著になるものと思われる。

工業生産に関しては、広東省や北京の生産ラインの一時停止なども報じられており、こちらも大きな落ち込みが生じているものと思われる。統計では、4月の工業生産額は前年同期比14.9%増と、第1四半期の17.2%をかなり下回っており、5月も引き続き落ち込むことが予想される。
(注2:各工業指標が落ち込みを見せる中で、乗用車販売の好調が見られている。4月の生産は16.69万台で、前年同期比83.6%増を記録した。SRASのため公共交通機関の利用から乗用車の利用へと転換する一般消費者が増えているからとの見方もある)。

天安門事件の時と同様の消費の落ち込みや工業生産の停滞が発生しているものと思われるが、外国からの直接投資に関しては、天安門事件の時のようには影響を受けないという考え方が一般的である。確かに天安門事件と違い今回の問題は、問題の真っ只中である現在でも、誰もが一過性のものであると考えており、予定していた直接投資を延期する企業はあっても、中止するという話は聞いていない。このため、天安門事件の時ほどはマクロ経済はひどい影響は受けないと予想される。ただ、影響が全くないということではない。例えば4月に開催された広州交易会では、来場者数は前年86%減、成約高は同74%減となったといい、今後、直接投資の指標にも落ち込みが見られることとなろう。

日本は、マクロ経済としては中国への輸出の減少という形で影響を受ける。輸出に占める対中輸出のシェアは11%に達しており、その影響は必ずしも小さくはない。個々の企業にとっては、観光・航空会社などはもちろんのこと、中国に生産を集中している企業や、中国からの部品や製品輸入に依存している企業も大きな影響を受けている。

SARSの問題は一過性で、時が経てば日本企業に与える影響も収まっていくものと考えられる。天安門事件の時に比べれば、その影響の期間も短いものとなろう。ただ、天安門事件の時以上に中国への依存度が高まっており、この依存がさらに高まっていたらどうだっただろうか、とも思われる。昨今中国への盲目的な投資が増えてきているが、今回のことを教訓にし、中国への生産の過度の集中を避け、他のアジアの国等を含めた分散投資を考えていくべきものと思われる。


 

以 上

2003年6月


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