本年の政府活動報告の最大の特徴は、「低所得者層の収入拡大や失業保険制度充実を増加させる」といった弱者対策に通じた安定の重視と言える。
行政、国有企業、金融の三大改革を掲げて登場した朱鎔基首相も本政府活動報告をみる限り軸足を安定へと移しつつあるようにみえる。雇用確保のため国債を大量発行しても「7%成長」を確保するとともに、13億の人口の約7割を占める農村部や社会的弱者への木目細かな救済策を打ち出した。
他方、昨年の活動報告でうたわれていた「政治体制改革推進」については今回言及がなされなかった。国有企業改革・金融改革については、全人代閉幕後の記者会見で朱鎔基首相は、「国有大中型企業の3年以内の黒字化は達成された」とし、不良債権の分離・比率低下の成果を強調したが、これは、国有企業の現代的な経営体制確立、不良債権問題などを棚上げにしてしまったといっても過言ではない。
安定重視の姿勢が採られる最大の要因は昨年12月に実現したWTOへの加盟。WTO加盟は長期的には中国に利益をもたらすと考えられるが、短期的には、農業・自動車産業など国際競争力の劣る分野において失業の増大など大きな摩擦を引起すことが予想される。
特に農業分野においては既に1億5千万人の余剰労働力が存在していると言われ、WTO加盟による輸入農産物増加の中で農村から都市部への出稼ぎ労働者が増加すれば、都市住民の失業率増加や治安悪化などにつながっていく恐れもある。このためWTO加盟慎重論も強かった。しかし中国は加盟への道を選んだわけであり、慎重論者への手前もあり、本年はWTO加盟の衝撃を極力抑えることが重要政策とされることとなった。
また、農民所得の伸び悩みと都市部住民との所得格差の拡大が国家統合を脅かすとの危機感も深まっており、さらに労働供給過剰傾向にあるのも深刻な問題の一つであろう。
労働社会保障省が掲げる失業率4.5%以下達成のために必要とされる新規雇用数は、800万人。中国ではGDP成長率1%で約120万人の雇用を生み出すとされ、7%成長はWTO加盟の衝撃を緩和するために必要な最低ラインと言える。朱鎔基首相は、「世界の経済と貿易の伸びは依然として鈍化しつつある」とし、外需は期待できないと考えている。こうした状況下、内需刺激のための1500億元の長期国債発行は7%成長を維持していくための策とも言える。
中国がWTOに加盟して迎えた最初の全人代だけに、朱鎔基首相の政府活動報告は注目されていた。しかしながらもっぱら安定重視の政策運営を唱えるにとどまった。
これは、今秋に予定される共産党大会での自らを含む党指導部の世代交代を意識しての事かもしれない。
とは言え、過去20年の経済成長率9%台から取り残された弱者への対策こそが、持続的成長のカギを握っていることも確かである。その意味では中国経済の本質を直視した報告であるとも言え、冷静な目でその推移を見守りたい。