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大陸おもしろ記事紹介

暗恋、できますか?


  「暗恋」とは、相手の幸せを壊さないように自分の気持ちを隠す、切ない片思い の事である。中国語の「暗」には「密やかな」という意味があり、訳すと「秘めた片 思い」、とでもなるのではないだろうか。好きな人が既に結婚している場合、恋人が いる場合、相手の生活の邪魔をしたくない場合などに、しばしば起こる。
  「あなたは暗恋ができますか?」今回のテーマはこれである。毎週金曜日に発刊 されている新聞『生活週間・LIFE』6月11日号からの話題だ。筆者は男性であるた めか、その口調は歯切れがよい。筆者は語る。「暗恋は、映画・小説ではよくある事 だが、実際自分がする事になると大変だ。苦しく切ないだけでなく、決して報われる 事はない。何故なら報われた時点で「秘めた片思い」という絶対原則から外れてしま い、暗恋ではなくなってしまうからだ。出口のないどうしようもない恋、それが暗恋 だ。今日、低い低いと騒がれている銀行の利子でさえ、それでも3%はついている。 なのに、暗恋は相手のためにいくら心を砕いて尽くしても、何の希望も持ってはいけ ないなんて、まるで元手を割ると知っていながら投資するバカげた商売のようではな いか!」と。
 以下、この記事はアンケートと体験談をもとに暗恋に対する人々の意識を紹介して いる。


「暗恋の現実 ー 損する商売に手を出すバカは・・・」

   「暗恋」について、任意に選んだ男女50名にアンケートをとったところ、次のよ うな現実が明らかになった。
 女性の75%は、誰かに暗恋される事を望んでいる。そしてその中の半数が、素敵 な相手さえいれば、自分自身も報われない恋をしてもいいと答えた。但し年齢層が上 がるにつれ、暗恋の支持率は下がる。「暗恋?何でそんな事をしなくちゃいけないの ?彼が本当に好きになるだけの価値のある人間なら、いつだって状況に関係なく、好 きだってハッキリ言うわ」この調査から、現代女性は驚くほど行動的で、また、自信 たっぷりである事がうかがえる。また別の角度から見ると、普通、女性は男性より恋 愛に対してロマンティックであると考えられていたが、実際はものすごく現実的で あったともいえよう。
 男性の場合、60%あまりが暗恋をした事があると答えた。彼らは一度好きだと思 うと、その女性に恋人がいる・いないを問わず、ただ黙ってもくもくと愛を育てる傾 向がある。あえて自分から行動を起こすことは少ない。また男性の1/3が、不思議 な事に誰かから暗恋をされたくないと答えた。理由は様々である。しかしここから推 し量ると、男性はもともと理性的な動物であると考えられているが、実は恋愛に関し ては却って幼稚であるといえるのではないだろうか。現代社会において、男性は比較 的低姿勢で恋愛にのぞんでいると思われる。
 また、68%あまりの女性は現代社会の生活において、暗恋は一種の贅沢品である と考えている。仕事の目の回るような忙しさの中、いったいどこにロマンティックな 気持ちを楽しむゆとりがあるのか、という訳だ。
 48%の男性が、近頃魅力的な女性が、だんだん少なくなってきたと答えている。 そのためか、結婚適齢期女性の場合、いいなと思っても、その人に既に相手がいた り、たくさんの競争相手がいたりする事が多々ある。このため彼らは、知らないうち に自然と暗恋に陥ってしまうという。
 最後に、50%の男女が共に同意したのは、暗恋は恋愛経験の少ない青春時代にだ けできる特権のようなものだ、ということである。普通年齢が上がるにつれ、こう いった機会は次第に減っていくようであった。



 「暗恋」という言葉の響きに引かれ、この記事を読んだ。日本語には、これに当た る言葉はあるのだろうか。「片思い」「忍び恋」、どれもパッとしない。暗恋とは、相 手が好きでたまらないのだけれど、自分の気持ちを知らせる事のできない恋の事だ。 友人に話を聞いたカンジでは、相手に知らせない、という部分に重点を置いた言葉の ようである。しかし誰もが思う事であるが、最終的にはやっぱり、暗恋であってもそ れに終わらず、相手に振り向いて欲しいと願う気持ちも多分に込められていた。
 こう聞くとロマンがあるが、筆者は暗恋を「元手を割るとわかっている商売」と例 えた。その上でアンケートを進めていく。アンケート参加者のある女性は、この意見 になるほど、と感心はするが、すぐに言い過ぎであるとたしなめる。「よく恋愛を損 得勘定で理由付けしてるけど、本当はそんなモノではないハズ」こういいながらも、 自分自身は好きだと思ったら、すぐに告白するから暗恋はする気も起きないという。 それなのに、彼女は誰か他の人からは、密かに愛される事を望んでいた。笑ってしま うが、同じ女性として共感する部分も多い。やはり女性は恋愛に関してワガママであ るし、それがなんとなく許されてしまう雰囲気があるのだろう。このワガママさが、 女性を恋愛に関して敏感にさせるのかもしれない。
 男性のアンケート結果は、なるほど、と説得力のあるものであった。モッサリとし た男性が、街で女性に引きずり回されるようにして買い物に付き合っている姿をよく 見る。黙ってついていっている割には幸せそうな顔をしているのであるが、いかにも 恋愛に不器用そうだ。しかし大学生の年代を見てみると、一概にそうとも言えない気 がする。小奇麗な格好をした男の子が、彼女の肩をしっかり抱いて得意げに歩いてい る様子を、前者と同じくらいの頻度で見かけるからだ。この場合、二人の距離が異様 に近く、男性が必要以上にはしゃいでいるのが特徴となる。二人でいるのがうれしく てたまらない、その姿を周りに自慢したい、といった感じをうけるのだ。
 男性も女性も様々である。だが時代が進むにつれて、典型といわれる男女のタイプ が、だいぶ変わってきたのは確実であろう。


「あなたは暗恋の経験がありますか?」

◇大学生 22歳 女性

 私は誰かから暗恋されたいと思っています。でもどうせなら、その人に思い切って 告白してもらいたいです。だけどうまくいかないもので、自分を好きになってくれる 男性は、得てして自分は好きになれない事が多いのです。けれども誰かに好かれると いう事は、女性として嫌な気はしませんね。
 私も以前暗恋をした事があります。その時は苦しくて切なくてもう大変でした。小 説やドラマで見るだけならいいけれど、自分から進んでするなんてバカげていると思 いました。

◇外資企業OL 29歳 女性

 暗恋は15歳の頃にした事がありますし、人からされた事もあります。けれども今 ではほとんどありません。学生の頃はそうでもなかったのに、仕事を始めてから恋愛 をする機会がぐっと減りました。特に外資企業に転職してから、仕事のムシになって しまったみたいです。昼間忙しく働いて、その他にまた時間を割いて恋愛をするなん て、できるワケがありません。我々にしてみれば、暗恋なんてロマンチックな幻想に 過ぎません。

◇自営業 32歳 男性

 私は毎日忙しく働き、月に1万元稼いでいます。両親は、はやく決まった彼女を家 に連れてこいと催促するのですが、私にとって結婚は危険過ぎるカケにしか思えませ ん。何故なら結婚が破綻してしまったら、その時に被る経済損失は多大なものになり ます。毎日こんなに苦労してお金を稼いでいるのに、バカらしいじゃありませんか。
 暗恋に関して言えば、これもまた私には関係のない事です。全く、これほど見返り のないどうしようもない商売はありません。死んだってできません。ただし、誰か女 性から暗恋されるのは別ですよ。



 この読者の声で興味深いのは、32歳の男性の意見である。離婚の時に経済的損失 を被るのが恐くて、おいそれとは結婚できないというのである。中国では結婚する時 に、誰が何を持ってきたのか、キチンと文書にしてに記しておく。例えば、部屋は誰 の名義、テレビは誰、クーラーは誰、といった具合だ。そうでないと離婚の時におお モメにモメてしまうのだという。慰謝料ウンヌンもバカにならないようだ。稼ぐ事に 精一杯で結婚前からこんな事を心配している彼は、当然の事ながら暗恋なんて疲れる 事をする気がない。少し変わった人だなと思うが、こういう風にキッパリと割り切っ た物言いをするのが、中国ではイマドキのようである。彼以外の、二人の女性の意見 には、素直にうなずけるものがあった。結局、結論としては「暗恋はしてもいいと 思っているが、実際に踏み出すのに躊躇している」ということでまとまるだろう。そ れは何度も繰り返し主張されている通り、大変なだけで得るものがないからである。 人は誰だって傷つきたくないし、苦しみたくはないのだ。
しかし、筆者は暗恋を擁護して、考え方を変えればそうばかりではないと、ある青 年の例を挙げている。この青年は、同じ職場の女性に暗恋をしていたのである。お相 手の彼女は裕福な家庭のお嬢さんで、二部屋しかない狭苦しい家に4人で暮らす自分 とは、住む世界が違う。特に彼女のボーイフレンドは非の付け所のない好青年で、毎 朝毎晩、彼女を自慢の自家用車、三菱の「Z」で送り迎えをしている。経済的にも太 刀打ちできない。どう考えても自分が、今の彼氏よりも彼女を幸せにできるとは思え ず、青年は暗恋に陥ったのである。鬱々と毎日を過ごしていたが、意外にも彼の仕事 上の成績は上がっていった。報われない筈の暗恋の最中に、昇進したのである。この 理由を彼は次のように説明している。「一人相撲のような恋愛をしてしまいました が、それでもただ1人の女性をひたすら愛する事のできる自分に自信がつきました。 好きな人を助けるために懸命になったり、幸せになれるように助けたりしたのです が、これは以前の自分では決してできなかった事です」。暗恋は度々人を絶望させる が、時には心の安らぎを与える事もある。何事も自分次第だ。この例はその事を教え てくれているという。
 報道によると、中国都市部の平均収入は去年に比べ約500元上がったという。し かしその内訳は個人の収入格差が広がったという事が事実らしい。恋愛への願望と現 実の厳しさの狭間の中、人々の意見も交錯し、定まる事がない。文化的に「暗恋」と いう趣きのある言葉を生みだしている反面、リアリスト達の意見も市民権を得る。け れども心のどこかでは、望むと望まざるに関わらず、自然と陥ってしまう恋への憧れ はまだまだ健在であるようだ。

北里 恵

(本連載は1999年5月~1999年11月に掲載されました)


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