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大陸おもしろ記事紹介

小姐たちの就職戦線


 「現代女性とは何か、それは職業婦人の事である」

 記事の出だしはこうであった。前回「理想の結婚」というテーマで斬新な提案をしてくれた雑誌『希望HOPE』から再び登場である。題して「小姐たちの就職戦線」。
 一般に、中国小姐たちの仕事への意識は高い。仕事を結婚までの腰掛けと考える事はめったにない。女性にとっても仕事は当然持つべき物であり、なくてはならない自己表現の一つなのだと考えられている。こういった共通認識が生まれた土壌はいったい何であろうか?実は、恐れ多くも中華人民共和国成立以後の政策と深く関わっており、今日のアグレッシヴな小姐たちを生み出すキッカケともなっている。彼女たちの就職戦線を見る事によって、現代中国における女性の立場や意識が、明らかになるのではないだろうか。



就職戦線と女性の地位

 現代女性とは何か、それは職業婦人の事である。今日、女性が社会的にどう評価されているのかを知るには、仕事上の待遇を見ればある程度まで明らかになる。
 現実問題として、女性の就職戦線は大変厳しい。女性である、ただそれだけの理由で、あなたは自分よりも能力的に劣った男性に、仕事を奪われるかもしれない。また、女性である、ただそれだけの理由で、あなたは仕事上の技能を疑われるかもしれない。
 職業の選択が自由になった今、女性の就職において、新たな問題が生まれつつある。まず一つ目、これまでになかった「職業の性的分業」の出現である。電気製品・おもちゃなどの組み立て・加工業が「女性に向いた仕事」と考えられるようになってきている。これらの業種では、男性の労働者は目立って少ない。
 また2つ目は、労働市場において女性の一時帰休(シャーガン)と転職が一般化しつつある事である。一時帰休人員の男女比率は約2:3である。女性は常に男性よりも高い。彼女たちのほとんどは再就職を希望している。しかし、一時帰休後、前よりも良い職場を見つける事ができる者は、ほとんどいない。
 その他にも、女性の職業技能が男性よりも平均して低いとみなされている、という問題がある。市場経済が浸透していくなか、人々に期待される能力が高くなってきているのであるが、女性はそれに対応しきれていない。そのために、より不利な立場におかれがちである。



 上記の記事において、最も強調されているのは「女性の地位が揺らいでいる」、という警告である。そこには女性と男性は同じである、同じに扱われて当然というきっぱりとした主張が奥底に存在している。中国小姐は日本女性と比べて、一般に押しが強い。喜怒哀楽が実にハッキリしており、行動的で奔放だ。また男性は家庭を大切にする傾向がある。こういった状況が生まれ、なおかつ市民権を得たのには、中国というお国柄と、人々の仕事に対する共通認識の差に秘密があるように思える。
 開放以後、労働者の楽園たることを目指した中国では、仕事は黙っていても必ず国からあたえらるモノであった。「鉄飯碗」という言葉がある。鉄の碗は割れることがない、つまり食いはぐれる事がないのを意味する。成人すれば国民は皆労働者となり、同じ立場に立った。労働者は国の主人公である。平等を前面に押し出し、男女の区別も廃止した。同じ仕事を同じ賃金で行ったのである。中国小姐が強くなったのは、これが原因であろう。女性にとっても、重視すべきは家庭よりも国家と仕事となった。この様な風潮の中、社会的バックアップもあり、女性だけが家事育児をする事がなくなったのだ。他にも現実問題として家庭を持った場合、旦那だけの給料では暮らしていけないという事実もあった。好むと好まざるに関わらず、女性も外にでて働く必要があったのだ。纏足に代表された、開放以前のか弱い女性像は消え去った。社会主義の平等意識に裏付けされ、男性と同等の賃金を得、家計を半分支える女性たちは自信をつけ、変身を遂げたのである。
 中国広しと言えども、上海男性の優しさは特に有名である。上海ではまさしく女性上位。男性は女性に尽くすために存在し、尽くす事で満足を覚える。根本的な点で日本と逆なのかもしれない。二人が付き合い出せば、男性は女性に至れり尽くせりのサービスをする。彼女の機嫌を損ねないよう荷物を持ち、食事をご馳走し、わがままに応える。結婚すれば男性は、気軽に家事を分担する。女性が掃除なら男性は洗濯、といった具合だ。子どもを幼稚園に送る事もある。家事は明確に仕事と認識されている。そのため、女性が家事を担当している場合、週末はその仕事を休む。旦那は奥さんのために食事を作り、普段の苦労をねぎらうのだ。
 近頃流行っている言葉に、「新好男人」というものがある。「新しい時代の良い男」という意味で、女性の望む理想の男性像の一つを表している。端的に言えば、仕事で成功しているのは当たり前で、その上で家族を大切にする男性を指す。家事をこなし、料理など妻よりも腕前が上である事が望まれる。「仕事上の表舞台と台所、その両方が似合う」これがその姿だ。
 しかし昨今、女性を取り巻く社会的状況は、大きく変わりつつある。市場経済が導入され、これまでの平等と安定の神話が崩されているのだ。「平等」の意味が変化し、結果の平等ではなく、能力に基づく平等が浸透する。人々には職業選択の自由が与えられ、それに伴ない自己責任も求められた。自分の興味関心にあわせて、好きな仕事が選べるものの、全ての者が希望通りにはいかない。企業側は人材を集めようと、採用者を厳しく吟味する。これまで中国になかった就職戦線の登場だ。能力のある者は高い給料の仕事を手に入れ、そこそこの者は、そこそこの仕事に就く。
 この戦いの中、女性は常に不利な状況にたたされている。能力的な問題も確かにある。しかし最も大きな理由は「女性である」という事実であった。仕事の中枢から排除されつつある女性は、その強さの基盤であった男性同様の経済力をも失いつつあるといえよう。


一時帰休女性 その時一番聞きたくない言葉・聞きたい言葉

◇聞きたくない言葉

「仕事がなくなると、人間こうもだらしなくなってしまうものなのね」
失業してから外に出るのも嫌になり、一日中家の中でぼんやりとしていました。以前は服装にも気を使っていたのですが、たまたま着の身着のままで市場に買い物に行って、昔の知合いに会い、こう言われました。

「君の今の仕事は、無駄遣いをしない事だよ」
失業してから、私はお金のない悲哀を嫌というほど味わいました。女性として独立した収入がなければ、すぐに男性からひどい扱いを受けるようになります。独身時代何でも対等だったのは、経済的に頼っていないという事実にがあったからだと気づきました。

「こんな年にもなって、まだ高望みをしているの?もうやめなさい」
 失業の後、再就職をしようと何度も申し込んだけど、どれもうまくいきませんでした。その後自分で仕事をしてみたのですが、3年ほどで立ち行かなくなってしまったのです。もう一度何か挑戦してみようと思っていたところ、両親に言われました。


◇聞きたい言葉

「失業したって良いじゃない、能力のある人はみんな失業したがってるわ」
 29歳に失業した時、友達に言われました。その言葉に励まされ法律を学び、弁護士の資格を取りました。失業を恐れる必要のない人は、資格のある人だけだと思います。

「僕は君にお粥くらいなら食べさせてあげられるよ(贅沢はさせてあげられないけれど、食べさせる事くらいはできるよ)」
 失業の後、非合法で就職していました。そんな時、夫がこう言ってくれたのです。彼の責任感と寛大な心に感動しました。一生忘れないと思います。



 社会主義国たる中国に失業はタブーである。しかし経営が悪化し、仕事がなくなれば首を切らなくてはどうしようもない。そこで考え出されたのが「一時帰休者」、中国語で「シャーガン」というシステムである。一時帰休者は、基本給の20%程度の給料をもらい、自宅待機する。しかし中国の一時帰休には期限がついていない。だから実質上、失業と同じで、新しい就職先を見つけなくてはならなくなる。
 中国において就職活動をしている人々は、大きく2つにわかれる。新卒と再就職者である。そのどちらも女性にとって厳しい道である。大学を卒業したものの、履歴書を見ないうちに突っ返される女子大生の話、一流会社のOLをしていたのに、紹介された仕事がトイレの清掃員だった話など、例を挙げればキリがない。
 このところ目に付くのは、男性の職場に進出する女性の姿である。もともと逞しい彼女たち、市内を走る大型バスの運転手、タクシーの運転手、トラックの運転手などを男性ドライバーと同じようにクラクションを鳴らしてこなしている。そういった光景に、たまに、ではなくシバシバの割合で出会う。きれいに化粧をしている彼女らが、男性たちと対等に渡り合う様子は、ため息がでるほどかっこいい。


「成功の鍵は自分に合った仕事を見つける事」

 仕事に成功する鍵は、自分に合った仕事を見つける事である。以前は、仕事といえば国家が我々に与えてくれるものであった。適職に付ける事は少なく、多くの人的資源の浪費生まれた。しかし現在、状況が変わり誰もが自分の希望によって仕事を選べるようになった。就職の難しさは存在する。しかしそれでもこれまでのやり方よりは良いと思われる。なぜなら人の才能を生かす仕事探しが可能であるし、就職活動を通じて人間性を磨く事もできるからだ。
 女性の就職問題は様々な領域に関係しており、政府によって多くの改善策が採られてきている。しかし、現代女性たるもの、ただ無駄に「待って・頼って・要求」しているだけでは能がない。我々は女性たちが自分自身の能力を高めるよう努力する事を望んでいる。一時帰休やその後に続く就職活動は一種の充電期間だと考え、最終的に社会の中に自分の居場所を見つける事を願っている。覚えておいて欲しいのは、気落ちしていても何もならないという事である。涙を流しながらでも必ず前を向いて前進していこう。成功とはこうして掴むものであり、それ以外の選択肢は存在しないのだ。



 様々な体験記の後、最後に提案されているのは、自助努力のすすめであった。努力によって、社会における地位を再び得よう、という事である。
 「日本の女性は優しくて良いね」以前、中国人男性からそう言われた事がある。どうも、おとなしくて家事や育児をだまってする、というイメージがあるようだ。日本ではもともと、仕事に関して女性が戦力として期待されることは少なかったように思われる。改善されてきてはいるが、今日に至るまでこの姿勢は一貫している。仕事場は男性社会であり、男性は女性を養えるだけの給料を稼ぐ事ができる。変わりに女性の賃金は低い。このため中国と違い、女性には「仕事はそこそこで家庭の主婦になる」という選択肢が、普通の事として存在する。ただし、それが女性にとって本当にプラスであるのかどうかはわからない。なぜなら男性に養ってもらう、という意識が受け入れられやすく、独立心が育たないからである。
 翻って中国の場合、壊れつつはあるものの、女性は男性と同じ働きができ、男性と同じ立場に立つ事ができる事を知っている。男性と同じ扱いであるために、無理をしてでも強くならざるをえない部分があるが、自分を思うままに表現できる。いったい、どちらがいいのであろうか?少なくとも現在、中国小姐たちには、男性に頼りきってしまう気はあまりないようである。そのために仕事が必要とされ、仕事を得るための努力が行われている。
 市場経済の導入以後、平等がモットーの中国において広がる格差のその一つに、男女差もはいるのかもしれない。「旦那のお給料がどんなに良くたって、関係ない。お互い働いている事には変わりないんだから、家事は分担が当然!」そういって外にでて行く小姐たち。ある意味、体制に守られなくなった彼女たちは自分の生き方を守るために、より一層の逞しさを身に付ける事になるのかもしれない。

北里 恵

(本連載は1999年5月~1999年11月に掲載されました)


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