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中国に魅せられちゃったのよ

結婚式と入院を経験!(4)


● お見舞いの人々、華東医院の病室

 東京在住で仲の良い無錫人女性が一緒に中国に来ていたので、友人に頼んで連絡してもらう。入院の事実を突然聞いて、電話の向こうでものすごく驚いていたらしい。すぐに話が伝わったらしく、彼女と共通の友人達が次々と来てくれた。素早い対応に感謝である。
 交通大学にも、2週間の講座を受けるはずが1週間目にして姿を消したのだから、連絡しなければならない。荷物も1泊2日分のリュック一つだけで、ほとんどは寮に置きっぱなしにしてある。とにかく、唯一電話番号を聞いていた同じクラスの日本人に電話をする。2、3日目にやっと繋がった。「どうしたの? 部屋にもいないし、サボってたのかと思ってたよ」「それがさ~脳膜炎で入院しちゃって…」「えええええ!」というわけで、日本人同学たちもインスタントお味噌汁やお花、日本語の本を持ってお見舞いに来てくれる。
 別の友人達からも、借りてきた携帯電話に「どう、元気~?」と連絡が入る。「いやぁ実は北京で倒れちゃって云々…」今回に関しては携帯電話を借りていって本当に良かった。気のせいか「ええっすぐに行くよ!」と洋服など必要なものを見繕ってすぐに来てくれるのは、圧倒的に女性の方が多かったような気がする。それでも、男女も国籍も問わず、毎日、誰かしら何か持ってきてくれた。水やお花やヨーグルト、ジュース、フルーツ、日本語の本、梅干し、お寿司、パン、着替えの洋服、日本茶のティーバッグ、エッグタルト、などなど。私の病室は物資で埋め尽くされた。よく見ると外国人用の病室なので部屋の造りも立派である。広い室内にクーラーやテレビは勿論、魔法瓶の中身は毎日2回取り替えられるし、ちゃんとバス・トイレもついていて、まるでホテルのようだった(といっても中国の三つ星くらいかな)。日本の病院のように消灯時間もなく、見回りの看護婦さんにはたまに「早く寝て下さい!」と言われるけれど、遅くまで本も読んでいられる。そんなこんなで、入院したにもかかわらず、私は結構快適な気持ちで過ごすことができた。


● 病院食について、そして脱走

 只、困ったのは病院食である。当初は全く食欲が無くて、せいぜいアップルジュースを啜るのがやっとだったが、ようやく食欲が回復してくると、どうもアラが見えてくる。三食に必ず出てくるのは白粥と饅頭(もちろん味なし)、それに日替わりで青菜の炒め物や蒸し海老などのおかずが2皿。もしくは大きな洗面器のようなボウルに入ったワンタン。ところが、おかずが美味しくないのである。病院食なのだから当然とはいえ、白粥ひとつ食べるのも往生した。お見舞いの梅干しやインスタント味噌汁がこのとき大いに役立った。食事係のおばちゃんの手によって、夕方には点心、夜には暖かい牛乳も運ばれるが、牛乳はともかく折角の点心も甘くない善哉のような感じで、私には全然食べられなかった。なかなか食が進まないので「まだ食べてるのー」と食器を下げる係の人にしばしば言われてしまった。
 入院3日目の夜、シンガポール人の友人から電話が入る。「日本食、食べたいでしょ? 病院の近くに美味しいお店知ってるから、一緒に行こうよ」この時は結構元気を取り戻していたので(せっかく私のために誘ってくれているのに、断るのも悪いよなぁ)と思い、「う~ん、大丈夫だよ」と返事をしてしまう。…ちょっとくらい平気平気、それに外出ついでに寮から荷物持って来ちゃえばいいし…でも一応看護婦さんに声を掛け「ちょっと荷物を取りに出てもいい?」と訊ねてみた。すると生真面目な彼女は(看護婦さんはみんな生真面目だったけれど)担当医に電話を掛け、「外出はダメです。多分あと一週間くらい」と言う。「えー、もうこんなに元気ですよ。問題ないですって」「ダメと言ったらダメ」うぅ、まずいなぁ。どうしよう…と思っているうちに友人が迎えに来てしまった。「下で車が待ってるけど、出かけても大丈夫なの?」「うーん…大丈夫でしょ! 内緒で行っちゃおう!」ええいままよ、と病室を抜け出す。「廊下に誰もいない?」「よし今だ」と、ダッシュでエレベーターに乗り込んだ。ふぅ。
 下で待っていたタクシーに乗り、彼の奥さんともう一人の友人の計4人で日本料理屋へ向かう。「病院食は不味いでしょう。好きなもの頼んで」と言われて、嬉しいのだけれど、あんまり食欲が無い。結局お茶漬けを注文する。しばし病院の暗い雰囲気から解放されて友人達と歓談を楽しんだが、だんだん頭が痛くなってきた。その時、付き添ってくれていた友人から携帯に電話が入る。「何で病室にいないの?」「いやぁ、友達と和食を食べに来てて…」「何―っ!」「ご、ごめん…」冷や汗をどっとかいてしまった。(さすがにやばいかな)と思い、中座して、帰り際に交通大学の寮に寄って、荷物を取りに行くことにする。友人にタクシーをつかまえてもらって乗り込む。寮の前で一時停車してもらい「すぐに戻るからちょっと待って」と、急いで部屋へ向かう…と、隣の部屋に住んでいるネパール人の友達に「ルミさーん!」と呼ばれた。「どうしたの? 最近全然居なかったじゃない」「それがねー今から急いで華東医院に荷物持ってかなくちゃいけなくて…」焦って会話したので途中から英語と中国語のチャンポンにになってしまった。「それは大変! 何か手伝おうか? 荷物、持つ?」「あぁぁありがとう~」彼の手を借りることが出来たので、思い切って荷物は全部、病院に運ぶことにした。荷物のケースを車のトランクに詰め込 み「今日は病院には行けないけど、連絡してね。お見舞いに行くから。気をつけて!」彼は心配そうに車を見送ってくれた。そしてタクシーの運転手のおばちゃんに「さっきのと今のと、どっちが男朋友なの?」と笑って訊かれてしまった。
 翌日。熱が再び上がり、頭も少し痛い。病院にはバレなかったものの、外出話を聞いた他の友人達からも「全くあきれた奴だ」と怒られる。自業自得かなぁ…トホホ。(つづく)


高橋留美



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