ところで、こんな上海フリークの私にも友人がいる。
彼女は雑誌の編集者で、海外にネタを探しに取材旅行に行く事になっていたのだが、海外旅行初心者である彼女は何処へいけばいいのか決め兼ねている様子だった。
そこで私が「やっぱり今面白いのは上海だよ!」と半ば強引に出張のアテンドを買って出たのである。しかし、今までは現地の優しい友人達に助けられて上海散策を楽しんでいたのだが、今回は私が案内役なので、非常に大きなプレッシャーを感じる。以前ちょっと留学の経験があるとは言え、言葉には自信がないし、なにより彼女が中国を好きになってくれるのかどうか、大いに不安だ。しっかりエスコートしなければ…と緊張してしまう。
彼女の仕事の都合で3泊4日と短い日程になってしまったが、とにかく行ってみる事にする。
6月14日
昼、上海空港に到着。ホテルまでのリムジンバスで市内へと向かう。ボロいタクシーに乗る事を覚悟していたので、非常に快適に感じる。「東京とあんまり変わらないね~」などという友人の言葉を聞きつつ、今回の宿泊先、ガーデンホテルへと向かう。
「ここは上海だけどほとんど日本なんだよ」と知ったかぶりをしつつ、チェックイン。時間もまだ早いので淮海路をうろうろ散歩する事にした。
聞いたところによると、2,3日前は大雨で洪水だったそうだ。私達が行っていた間は梅雨の晴れ間だったようで、暑いくらいの陽気である。そんな中、彼女はスーパーマーケットを見つけて「マーボードウフの素だ!」などと、中国の食材を沢山買い込んでいた。
夕方は上海在住の友人達7名で、最近ハヤリの「小南国」という上海料理のレストランへ。お肌をキレイにするべく、みんなで蛇のから揚げにむしゃぶりつく。これが意外とうまかった。初心者の友人もばりばり食べていた。生き血は少ししか飲めなかったけど…。
ホテルに帰って寝る前に、無事の到着を祝して友人と二人、ガーデンのバーで乾杯。上海の夜景を見下ろしつつ、これから3日間、どうなることやら心配をとおり越して楽しみになってきた。
6月15日
「太極拳をする人を見たい」というリクエストにお応えして、午前中から地下鉄に乗って人民公園へ行く。出口を間違えたようで少々迷いつつも、なんとか到着。着いたのが昼近くだったので太極拳老人も多くはいなかったけれど、ちょっとだけ見る事が出来た。(ホッ)
それからバンドを散歩、そして友諠商店へ。それにしても暑い。空には雲一つなく、カンカン照りの陽射しは夏のようだ。ふらふらしながら友諠商店でお土産(硯と筆のセット)を買い、ホテルへ戻る。
ガーデンホテルで上海の友人を交えた軽い昼食の後、今度は豫園へ向かう。ここは流石に昔の上海の雰囲気が色濃く残っているだけあって、友人もとても気に入ってくれたようだ。しかし周辺のお土産物屋さんを廻っているうちに、暑さと入りくんだ路に朦朧としてきた。でもここまで来たからには、大世界にでも行って中国の雑技を見せてあげねばなるまい。タクシーで到着した時には、ちょうど舞台でマジックや体操をやっているところだった。「上海雑技団もいいんだけど、ここも浅草の花やしきみたいで風情があるでしょー!」と友人を無理矢理納得させる。
ひととおり大世界見物を終えたところで、暑さにうだりながら、彼女の行きたがっていたお茶のお店に向かう。有名な「黄山茶叶店」が近かったので入ってみた。最近若い日本女性の間で中国茶がブームらしく、友人はおみやげ用に沢山のお茶を買い求めている。私も必死になって中国語の数少ないボキャブラリーを引っ張り出して通訳した。その甲斐あってか満足の行く買い物ができたようで、とりあえず安心した。
夜、これまた彼女の希望で四川料理を食べに行く。同席した私の知人にご馳走になってしまい、嬉しいやら辛いやら、でも日本では絶対に食べられなさそうな深みのある味に大満足であった。赤坂の四川飯店も美味しいけれど、本場・中国はやっぱり違うな~。
6月16日
午前中から常熟路まで地下鉄に乗り、華亭路へ繰り出す。朝だけあって比較的混雑は少ない。彼女は中国風ブラウスや、Tシャツなどなどを、それぞれ30元くらいで購入。私もバッグを買おうか迷ったけれど、思ったほど値切れなかったので二の足を踏んでしまい、買わなかった。
雨がぽつぽつ降り出してきたので一旦ホテルへ戻り、上海にいる友達から紹介された著述業の方と飲茶をご一緒する。初対面だったにもかかわらず、話していると共通の知人が何人かいることが分かり、改めて上海の日本人社会の狭さを感じた。
中国の面白い話を聞かせていただき満足しつつ、今度は私の友人で小物ショップを営む女性と会ってお茶する(3泊4日なのでこんなきちきちのスケジュール!)。一服した後で一緒にその人のお店(浦東)へ行き、またもお土産物や洋服やらを買う。
その後「デパートを見たい!」という更なるリクエストにお答えして、ヤオハンへ。いちばん上の階に、近頃東京では見かけないエアーホッケーを発見したので(たしか一回1元)思わず対戦して盛り上がってしまった。東京で流行らなくなった古いゲーム機は、こうして中国に流れてきているのだろうか…?
ヤオハンのサンダル売り場やらおもちゃ売り場を見ているうちにあっという間に時間は過ぎていく。最後に食料品店の階に行って、最後のおみやげ買いつけをした。友人は朝鮮人参やら白酒やら漢方薬のドリンクやらザーサイやらお菓子やら、ものすごい量の買い物をしていた。中国ビギナーには珍しいものが多いのだろうか、何となく微笑ましい情景であった。でも荷物は相当重くなってしまった。帰り、大丈夫かなぁ…。
夜ホテルへ戻り、今度は上海人の友人と夕食に行く。淮海路をちょっと北に入ったところにある小さな麺のお店に行ったが、ここがなかなか穴場だった。「さすが地元の人はローカルなお店を知ってるね~」と友人も満足そうである。よかったよかった。
帰りがけに思南路の喫茶店で一服。ここで友人に「上海名物(?)」の珍珠入り茶を「何事も経験だから」と飲ませる。「…ゼリーみたい…」と素朴な感想を口にする友人。でもまた一つ上海ならではの経験をしてもらえ、案内役としては満足である。(自己満足?)
本当はこの後、上海最後の夜を楽しもうとクラブへ行く事になっていたのだが、買い物の疲れが出たので、早めにホテルへ戻って休む事にしてしまった。
6月17日
昨日の疲れはどこへやら、私が午前中だらだら寝ている間に、友人は一人で早朝散歩に出かけていった。どうやら、中国では街なかを寝間着で歩いている人が大勢いることにカルチャーショックを受けたようで、「ねまき人」の写真を撮りまくっていた。「あとはお尻の割れた服を着ている赤ちゃんの写真が撮れれば完璧だったのに~」と悔しがっていた(説明は不要ですよね?!)。
また「中国の男の人って、なんでいつもうすら笑いを浮かべてるのー?」という質問も受けた。おいおい散々お世話になっておいて「うすら笑い」はないだろうー。「あ間違えた、アルカイックスマイル!」まあどっちにしても、日本人の男の人はああいう優しげな笑顔って浮かべないな、そういえば…。
…といったところで、今度の短い旅はこれで終わりである。思い返せば今回も、随分といろんな人のご好意に助けていただいた。いつ行っても暖かく深い「人」に触れることができて、ますます上海が好きになったし、友人もそんな私の気持ちを分かってくれたようであった。暑い中ひたすら走りまわった余裕のない日程であったにもかかわらず、彼女もまた上海を好きになってくれたようで、大いに安心した。帰りの成田エキスプレスの中で思わず酒盛りをしてしまい、帰りは2人ともへろへろに酔っ払ってしまったが、彼女の中で上海旅行が良い思い出として残っていればいいなぁと、思っている。
(この項おわり)
高橋留美 |