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* ドロップアウト*
日本からの短期留学生が「上級」「中級」「初級」「入門」の4つのクラスに分けられたのは前述の通りである。私はなぜか「初級」クラスになったのだけれど、これが「どこが初級だー!」と叫びたくなるほど難しい授業だった。教科書の例文にはピンインも載っていないし、漢字の読み方を調べるだけで一苦労、回答問題ではなるべく当たらないように小さくなっていた。
一週間経った頃「これじゃいかん! もっと基礎から学ばないと身に付かないっ!」と一念発起して、思い切って下のクラスに移ることにした。
まずは教科書を買い換えるべく教務課へ赴く。「入門の教科書が欲しい」と伝えると何やら説明を受ける。「???」よっぽどきょとんとしていたのだろうか、一言「ザイムカ」と言われた。ははぁ、財務課で料金を払わなければならないのだな、とようやくわかる。「ごめんなさい、中文学習をはじめたばっかりで聞き取れなくて」「大丈夫、没問題」「そうですかねぇ」「そうそう」そんなような話をして、言われた通り財務課へ。すると受付のおじさんからも、何やら中国語で話しかけられる。うぅ…わからない。焦りのあまり無言になってしまう。これじゃやっぱり有問題だ。中国語の語気が荒いせいか「言葉の出来ない生徒は日本からやって来るな」と叱られているような気がしてくる。
偶然、隣にいた日本人留学生の人が見かねて「教科書の値段がわからないって言っているんですよ」と教えてくれて、またもや全身からどっと汗が噴き出る。教科書ひとつ買うにもこんな苦労をしないといけないなんて…。情けなさで一杯になり、ちょっとでも聞き取れる日が来るといいなぁ、と思いつつ、とぼとぼと寮の部屋に戻ったのであった。
*寮のお部屋*
その寮の部屋は一人部屋で、一流ホテル並みとは言えないけれど、予想していたより遥かに凌ぎやすかった。お湯も毎日24時間出るし(時々止まるけど)、電気もつくし、部屋の掃除には毎日オバサンがやってきて、ジャスミンティーのティーバッグを置いていってくれる。電話は館内・市内通話専用と国際電話が受けられるものと2台ある。但し国際電話を部屋から掛けるのはプリペイドカードを買わなければならず、ちょっと面倒なので、殆どの学生は国際電話を「待つ」立場にあった。もちろん退屈である。自習すればいいのだけれど、それにしても留学生活というのは暇なものだなぁと、みんなでグチを言っていた。
私はメールチェック用にモバイルを持ってきていたので、すごく役に立った。留学の間にはなるべく日本語に触れないように、チェックは一日一度と決めていたけれど、時々同級生嬢たちが「貸してー」とやってくるようになった。なかなか電話もできない日本にいる彼氏にメールを送っているそうである。別にかまわないけど、こっちが照れちゃうようなラブラブなメールを書いている様子。若いっていいな。そして受け取る返事もまたラブラブなやつがやってくる。返事が来ると「来たよー」と彼女たちに教えてあげて、部屋に呼ぶのである。三日に一回くらいそんなことがあった。べ、別にかまわないんだけどねっ!
*タクシーを値切る*
上海のタクシーはなんだか恐い。車はボロいし、運転手さんは道を知らないし、みんなお茶を入れる水筒代わりのネスカフェの空き瓶を携えており、小指の爪をのばしている(どうでもいいけど)。みんな口を揃えて「良いタクシー会社を選んで乗らないとダメ」と言うのも分かる。とはいえ悪い人ばっかりではない。ある日復旦大学前から市内に出ようと3人でタクシーを拾って乗ったら「留学生?」と話し掛けられた。「どこから?」「幾つ?」などと話していると、「復旦の留学生は美人じゃないけれど…」と言い始めた。「何ぃー?」と詰め寄ると「い、いや、君たちは美人だねって、言いたかったんだよー」というような言い訳をする。面白かったので「本当か」「本当だったら安くしろ」と更に詰め寄ったら、半端分の3元をまけてくれた。やったね。よかった。
*毎日のお食事
復旦大学は田舎である。大学の、特に留学生が滞在している国際文化交流学院の周辺には何もない。歩いて五分くらいのところには五角場という街があるけれど、そこまでの道には、韓国の留学生が多いのか、韓国料理屋が最も多かった。
学食もあったものの、ちゃんと行っていたのは最初だけで、だんだん飽きてくるので大概は外食していた。というわけで、私達の昼食はビビンバやキムチチャーハンになる確率が高く、辛さにはだいぶ強くなったような気がする。
寮の各階には小さなガスコンロがひとつあるだけで、とてもじゃないけど自炊は無理。なので、朝は抜き(ぎりぎりで起きて、教室へ直行するから)、昼は韓国料理、夜は適当にその辺で、または市内へ出ておいしいところを探す…というような食生活を送っていた。なんだかちょっと痩せてしまったようで、友人達からは心配されてしまった。お腹もこわさず、ちゃんと食べていたのだけれど。
*京劇と上海雑技団*
復旦大学の課外授業で「京劇参観」があったので参加することにする。みんなでバスに乗って福州路の劇場まで行き、3時間にもわたる京劇を観てきた。感想は「わけがわからなかった」。 でもまあ衣装も綺麗だったし胡弓の音色は美しかったし、滅多に見られないものだったので後から考えると良い体験だったような気がする。
この『上海エクスプローラー』でもお勧めの上海雑技団も観に行ったが、こちらは文句なしに楽しめた。「体、柔らかいね~」などとぼんやり口を開けて見入ってしまった。でもパンダが出てこなかったのは残念…。帰り道、ギャル達と歩いていたせいか、日本人に「ハードロックカフェに行きましょう」とナンパされた。「僕たちは上海に詳しいから」という言葉に思わず迷ったけれど、結局行かなかった。これは、余談です。
(つづく)
高橋留美 |