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上海蟹大辞典

11.上海蟹故事(2)-沈周と上海蟹-


 明時代の蘇州の有名な画家、沈周は、陽澄湖の上海蟹とただならぬ関係がある。「陽澄湖の上海蟹がなぜあんなに肥えているのか?」それは当時沈周が用いていたもち米墨汁で育ったからだ、と。
 
 沈周は山水画にたけ、詩文を著わし、気持ちを表現することを得意としていた。陽澄湖は沈周がもっとも好んだ場所である。彼はよく湖畔に来て、点在している漁船の帆や、葦が青々とし、カワラバトが泳ぎまわり、魚が水と遊ぶのをながめ、早朝から日が沈むまで、彼は筆を休めることなく描き続けた。あるとき夜の帳が下りても、彼は紗を張った燈籠が放つ光の中で、ほそぼそと夜景色の陽澄湖を描いていた。彼の筆の下で、絵は神秘に満ち静謐で、見た人は口々に賞賛を禁じえなかった。

 沈周の用いる墨は、もち米で調製したものと言われている。なぜなら、いかにも気持ちよく滑らかで、そのうえ変わった香りが鼻をつくからである。この特別な墨の香りが、彼が湖水で筆を洗うときに湖に流れ、一群の上海蟹をひきつけ、夜になり沈周が明かりの下で絵を描くときには、ときどき湖の蟹がそっとイーゼルに這い登り、彼に付き合っていることもあったといわれた。

 今日の陽澄湖の上海蟹もやはり明かりを見ると上がってくるが、これは沈周が当時湖畔で明かりをともしながら絵を描いたことで習慣付けられたものだと言われている。更に蟹を食べるとき、甲羅を返して見てみれば、どのシナモクズガニのおなかの中にも小さな一塊の黒い色がある。これは何なのだろうか。これこそまさに沈周が当時使っていたもち米の墨が残っているそうだ。

 
 
2003'' 冬 Konok


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