真田 晃(元上海総領事館領事)
南浦大橋は91年11月19日の開通以来、浦東と市街地を結ぶ大動脈としての役割を果たしています。また、浦東地区ヘお客様を案内する際の必須のポイン卜となっておりますが、その際には、「横浜べイブリッジ、瀬戸大橋の途中の橋とどちらが長いのか?」、「中国独自で建設したのか?」等々の質問をよく受けます。そこで今回は先ず、南浦大橋の諸元及び完成までの主要な経緯についてご紹介したいと思います.また、車で南浦大橋を渡られた方は両側の歩道で下の黄浦江を覗き込んだり主塔や遠景をバックに写真を撮っている多くの参観客を目にされたと思いますが、このように橋に直接登ることもてきますので、あわせてそのご案内もさせていただきたいと思います。
l.南浦大橋の諸元
南浦大橋は皆様ご存じのように「斜張橋」、中国語では「斜拉橋」と呼ばれる形式です。更に細かく言うと「迭合梁斜拉橋」というそうですが、これは橋本体(ケーブルで吊っている部分)の桁が鋼材及びプレス卜レス卜・コンクリー卜の異なる2種の材質の組合せとなっている(合成梁)ためにこう呼ばれるとのことです。
橋の全長は、橋本体の桁の長さが846m、主塔(ケーブルが懸かっているH形の塔)の間=「スパン」がその半分の423mとなっています。ちなみに、橋が架かっている地点での黄浦江の川幅は約340mです。上海市側の説明資料では、全長8346mとも記述されていますが、これは、この本体部分に、浦東側、浦西側にそれぞれ3ヶ所ある橋への出人□から橋本体までの取り付け道路をも含めてのものです。
他の斜張橋の規模をスパンで比較してみると、南浦大橋を上回るスパンを持つものとしては、我が国の生□橋(イクチハシ、本四架橋の尾道-今治ルート中の橋)の490m、カナダのアナシス(Annacis)橋の465m、横浜ベイフブリッジの460m、インドのSecon Hooghly橋の457.2m等が挙げられます。また、瀬戸大橋の中間部の2つの斜張橋である櫃石(ヒツイシ)島橋、岩黒島橋は共にスパンが420mとなっています。なお、黄浦江に架かるもう-つの橋「楊浦大橋」のスパンは602mと世界最長級のものとなっています。南浦大橋開通時の上海市の説明では「南浦大橋は世界第2位の長さ」とされますが、説明資料をよく見ると「迭合梁斜拉橋として」となっており、これは、橋桁の構造が南浦大橋と同様なコンクリートと鋼材の組合せ構造となっているアナシス橋に次いで第2位としているようです。つまり、横浜べイフリッジ等の全鋼製の橋は除外されている訳です。また、生口橋も「複合箱桁」と呼ばれるコンクリ-トと鋼材の組合せ構造になっていますが、開通が南浦大橋より後(1991年12月8日)であるためか、ランキングには加えられていないようです。
橋桁下面の水面からの高さは46mとなっています。これは、橋より上流の造船所で建造される最大級の船である5万5千トンクラスの船が通過できる高さとなっています。なお、46mというのは満潮時の川の端での高さで、橋桁が上に凸のカーブを描いていることから中央部ではこれより数m高くなっています。
主塔は高さ150mで中空の鉄筋コンクリート構造となっています(揚浦大橋の主塔は220m)。主塔の左右2本の柱からは、橋桁を吊る22本のケ-ブルがそれぞれ両側に伸びています。ケーブル自体はカバーがかかっているので見ることは出来ませんが、直径7mmのピアノ線を束ねたものです。ケーブルの最も太いものはピアノ線265本からなっていて外径が146m、最も長いものは223mでケーブル自体の重さが21トンにもなるそうです。
橋上は自動車道が片側3車線、計6車線あり、両脇には幅2mの観光歩道が設けられていて、全体の幅は30.35mとなっています。橋のキャパシティとしては、l日当たり通過車両5万台で、これは西暦2010年時点の需要想定値となっています。取り付け道路は、浦西側、浦東側にそれぞれ出入□が3ヶ所あり、また、地上約50mまで登るので、総延長は7500mに達しています。取り付け道路の最大勾配は、上りが4%、下りが3.5%となっています。なお、市内で走っている連節バス等平坦地向けの低馬力の乗合バスはこの長いスロープを登れないので、開通当時同橋を通過する路線バス用に車体の短い専用バスが製造されたことをご存じの方もおられるでしょう。
2、南浦大橋建設の主要経緯
南浦大橋の建設は、浦東開発が国家プロジェクトと位置付けられる(1990年4月)に先立ち、1989年12月15日に着工されています。設計は上海市政工程設計院と同済大学建築設計研究院が担当し、建築には上海市基礎工程公司等18の国内機関が当たっています。このように、同橋の本設計以降は、中国の独力でプロジェク卜を進めていますが、その前段階の調査で我が国の協力実績があります。これは、国際協力事業団(JICA)が1987年2月から約l年間をかけて実施した開発調査「上海市黄浦江架橋計画」で、同調査ではまさに現在南浦大橋が架かかっている地点ヘの架橋について、技術的、経済的検討を行い、「斜張橋」形式が最適である旨提案するとともに、概略設計を行っています。なお、同調査での設計提案は、現在の橋より若干小さくなっていて(スパン400m、主塔高さ126m)、橋桁の構造としては、合成梁でなく中央部は全鋼製、端部はプレストレスト・コンクリート製を採用するというものでした。
その後、同橋の工事は1991年6月8日に橋桁が接合され、同11月19日には李鵬総理の出席のもと完成式典が行われました。なお、この際に主塔の横梁に赤く記された鄧小平の揮毫による「南浦大橋」の題字もあわせて披露されています。なお、この題字は、2つの主塔の横梁の両面、合計4ヶ所に記されています。
同橋の総建設費は8.2億人民元ですが、その内4億元は取り付け道路の設置にともなう立ち退き費用となっています.建設費の財源には、アジア開発銀行からの7000万米ドルの融資、外国銀行団からの4800万米ドルの融資等が充てられています。また、橋の通行は有料で、開通当時乗用車(正確には2トン以下の自動車)が片道3元等となっていましたが、この科金水準はこれら建設資金の回収の観点から設定されたものではなく、既存のトンネルの通行料金と同一にしたもののようです。
3、南浦大橋観光の案内
南浦大橋の車道上では自動車の停車、ましてや車から降りるのは厳禁で、もし止まろうものなら、公安がすぐにやってきてキツイお灸をすえられます。従って、橋からの景色をゆっくり楽しむには、橋の歩道からということになります。
橋の上には、観光用のエレべーターで上りますが、エレべーターの乗り口は、橋の浦西側のたもとのバスターミナル(中山南路と陸家浜路の交差点、ループ状の取り付け道路に囲まれたところ)の南端にあります。なお、乗り場前の広場の脇には駐車場があります。乗り場の窓□で「観光券」を購入し(編集部注:98年9月現在5元)、定員15名のエレべーターで橋の上面までの約50mを一気に上がります.エレべーターは、皆様ご存知の上海三菱電梯有限公司製でとても滑らかな乗り心地です。
橋の上では、橋本体部分の観光歩道上のみ通行可能で、取りつけ道路部分へは行けません。橋の上では、地上50mから見下ろす黄浦江を行き交う船や、沿岸の工場、住宅、遠く浦東新区の眺望が楽しめますが、思いのほか風が強く、ホコリっぽいのでご注意下さい。ご用とお急ぎでない方には、橋を浦東側まで渡り、反対側の歩道を折り返してくるコース(歩行距離2km弱)をお勧めいたします。浦東側の橋の端部には、浦西側と同しエレべータホールがあり、ここの階段を3階分程降りると反対側に渡る通路に出ます。再度階段を上がって反対側の歩道に出ます。下流側(北側)の歩道の中間点には有料の望遠鏡があり、覗いてみるのも一興でしょう。遠く揚浦大橋等を望むことが出来ますが、外灘の建物は手前の建物の影になって、殆ど見ることはできません(編集部注:98年9月現在チケットの発売は8:30~16:00、観光は8:30~16:30。夏季は終了時間が延長されます)。
また、一寸変わったアングルから南浦大橋を眺めるには.橋の真下を横切る南碼頭フフェリーに乗ってみるのも面白いと思います。浦西側の乗り場は橋の下流側100m程の所にあります。浦東側の船着場は逆に橋の上流側に位置するため、河を渡る途中で橋の真下をくぐります。
以上、皆様がお客様をご案内される際、ご自身で行かれる場合のご参考となれば幸いです。なお、世界の主要斜張橋のデータについては、三井建設株式会社上海事務所様から貴重な資料をいただきました。この紙面を借りて深くお礼申し上げます。
世界の主要斜張橋の諸元比較
| 橋の名称 |
楊浦大橋 |
南浦大橋 |
生口橋 |
アナシス橋 |
横浜ベイブリッジ |
| 架設場所 |
上海市 |
上海市 |
広島因島 |
カナダ |
横浜市 |
| 完成年月 |
93/9 |
91/11 |
91/12 |
86年 |
89年 |
| 中央径間(注1) |
602m |
423m |
490m |
465m |
460m |
| 橋部全長 |
1172m |
846m |
790m |
930.5m |
860m |
| 総延長(注2) |
7658m |
8346m |
|
|
|
| 橋桁材質 |
複合(注3) |
複合(注3) |
複合(注3) |
複合(注3) |
鋼製 |
| 主塔高さ |
208m |
150m |
123m |
153m |
172m |
| 形状 |
逆Y型 |
H型 |
A型 |
H型 |
H型 |
| 材質 |
鉄筋コンクリート |
鉄筋コンクリート |
鉄筋コンクリート |
鉄筋コンクリート |
鋼製 |
| 橋桁下高さ |
48.0m |
46.0m |
|
56.4m |
55.0m |
| 通貨可能船舶 |
5万トン級 |
5万トン級 |
|
|
|
| ケーブル数 |
2面32本 |
2面22本 |
2面14本 |
2面24本 |
2面11本 |
| 素線 |
7mm径ピアノ線 |
7mm径ピアノ線 |
7mm径ピアノ線 |
7mm径ピアノ線 |
7mm径ピアノ線 |
| 素線の数 |
~313 |
~265 |
241 |
109~283 |
119~421 |
| 工期 |
2年5ヶ月 |
1年11ヶ月 |
5年6ヶ月 |
|
|
| 総工費 |
13.3億元 |
8.2億元 |
350億円 |
|
|
| 主要財源 |
ADB79M$
(注4) |
ADB70M$
外銀48M$
(注5) |
|
|
|
| 最大設計風速 |
57m/秒 |
80m/秒 |
|
|
|
(注1)橋の規模は通常中央径間(スパン、主塔の間の距離)で比較される
(注2)総延長とは、橋へのアプローチ部(取寸道路)も含めた長さ
(注3)複合橋桁とは、鋼材とプレストレスト(PC)コンクリ-トの組み合わせ構造のもの
(注4)ADBは、アジア開発銀行からの融資
(注5)外銀は、アジア開発銀行融資に対応した商業銀行の協調融資
(関連ページ:上海の観光地「外灘・バンド」・上海の観光地「浦東陸家嘴」)
|