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なかなか簡単にはいかない草原への旅 |
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とうとう今回の旅のハイライトである内モンゴルの大草原に向けて出発する日がやってきた。天気はあいにくの曇り。 外は少し肌寒い気がする。 午前9時、待ち合わせのロビーに行くと、ガイドの白さんはもうすでにやってきていた。昨夜の約束で、出発前に、 われわれの切符の手配をすることになっている。私は上海に戻る便、そしてM君はウランバートルへの切符を買わねばならない。 てっきり歩いて旅行代理店に行くものと思っていたら、ホテルの駐車場にツアー会社のバンがとまっている。このまま草原を目指 しそうだ。見ると、なかに何人かの人が乗っている。 そのうちの二人が今回、ツアーでお供することになったいずみちゃんとマーク。マークはドイツからの留学生で、 これから青島にある大学で研修を受けるという。いずみちゃんは日本の大学の夏休みを利用して、彼に会うために、 中国にやってきたとのこと。 「申し訳ないんだけど、ぼくらの切符を買わないといけないので、まず旅行代理店に連れてってもらうよ」 「ノー・プロブレム」 人のよさそうなマークが英語で答える。 代理店に着くと、あいにく、上海行きの切符はすべて売り切れで、私はとりあえず北京行きの切符を買うことにした。 現金も残り少なく、また、クレジットカードも使えないので、北京から上海行きの便は買えない(実は、上海でつくった中国銀行 のカードや貯金通帳までが大同やフフホトの中国銀行の支店では使えないことが判明。現金を得る手段を失ってしまったのだ)。 M君も、日曜日でモンゴル航空のオフィスが閉まっているため、ツアー会社の人が代理で週明けに買ってくれることになった。
結局、この作業に1時間を費やし、ようやくわれわれを乗せたバンは大草原に向けて出発することになった。このバンには、 われわれの他にもツアー会社のスタッフと思われる人が数人乗りこんでいて、おせじにもゆったりとはいえない。シートも硬くて、 おまけに古くて窓も満足にはあけられない。これからの4時間あまりが少々心配だ。
実は、朝迎えにきた白に行き先変更の知らせを受けていた。当初予定していたシラムール草原ではなくて、もっと遠くて高い
ところにあるフイタンシールー草原に向かうことになったのだ。そう、夜はかなり寒くなるという海抜3千メートルの草原だ。
★草原行きの代償? フフホト市内を出たころから天気も回復し始めた。朝方の曇り空から晴れ間の見える、まずまずの天気になりつつある。 やはり北方で見る青空は違う。少々ほこりはあるものの、高い空を眺めると透き通った抜けるような青空が見える。その青空の下、 あまり広いとはいえない道路を、われわれのバンが猛スピードでぶっ飛ばす。 「気分はそう快」…といいたいところだが、実際には、縦揺れ、横揺れの連続でそんな余裕はない。舗装道路がところどころ 分断されているうえに、そのうちのいくつかは赤土のため水に弱く、大雨の後で大きなでこぼこができている。そのでこぼこに ぶつかるたびにバンは波をうったように揺れ、必死につかまっていないと振り落とされそうだ。昨日の硬座で痛めた腰がさらに痛む。 とはいえ、その腰の痛みを補ってあまりあるのが外の美しい景色。ところどころに見える赤土の大地に、とうもろこしやひまわり、 そしてコウリャンの畑が広がり、道路脇には延々と並木が植えられている。 目の前の黄色や緑の大地を見ていると、なんとなく北海道の富良野や美瑛を思い出す。なだらかな丘といい、色彩といい、 まるで美瑛の丘を走っているようだ。もしくは、スペイン南部のアンダルシア地方。あそこも乾燥した大地のうえの真っ青な空が 印象的だった。また、ひまわりのある風景は、イタリアのトスカーナ地方を思い出させる。 この風景のなかでも感動的なのは、時たま現われる放し飼いの馬や羊たちの群れだ。大自然のなかでゆったりと草を食べている。 まさに、牧歌的というにふさわしい光景だ。 すばらしいシャッターチャンスの連続―――となるはずだった。ところが、そうはならない。車があまりにも揺れるためカメラ をちゃんと押さえておくことができないのだ。また、窓を開けようにも古くて開かない。ホコリまみれの窓を通してでは、 いい写真は撮れない。 それはあたかもすばらしいごちそうを目の前にしながら、腕を後ろ手に縛られ、はしをつけられない状態にあるのと同じだった。 くやしいのは山々なのだが、どうしようもない。仕方ないので、シャッタースピードを500分の1秒にして、多少のぶれがあっても 大丈夫なようにして何枚か撮った。それがせいいっぱいだった。そして、最後にはカメラを諦め、激しい揺れのなか、 私はしっかり目を見開いて外の美しい景色を見つづけた。「よし、今回は心のカメラにしっかり焼きつけておこう!」 と決意して…
外の景色を見て、もう一つ特徴的なのが乾燥した大地。白さんに聞くと、今年は特に雨が少ないという。 そういえば、しばらく前に読んだ新聞記事に「中国のトウモロコシ生産量が少なくなっている」というのがあった。原因は、 山西省など北部産地の干ばつ。引用されていた大学教授によると、「黄河の断流地域は最大千キロに及ぶ」ほどの深刻な事態らしい。 ここにも乱伐など自然破壊の代償がはっきり見て取れる。 たまに出会う村落地域では、おそらく黄土でつくたであろう家々が乾燥しきった姿を見せていた。ほこりっぽいことこの上ない。 しかし、このような環境でも生きていける村人たちを見て、人間の順応性のすごさを感じずにはいられなかった。この人たちに とっても、ここは「住めば都」なのだろうかと思いながら…
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