| TOP/エクスプロア中国トラベル/内蒙古的大草原的旅日記/その4の下<フイタンシールー草原> |
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大自然に抱かれながら |
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ちょうどその時のことだ。沈みかけた太陽からもれる西日に照らされて、東側にある雲の一群が鮮明にわれわれの前に姿を現し始めた。何と形容すればいいのだろう。空にいくつもの綿状の四角いかたまりが浮かんでいるといえばいいだろうか。今までに見たこともない形だ。 私はその雲の一群をバックに力士たちの戦いをフィルムに収めると同じに、暮れゆくモンゴルの空を撮影しつづけた。パオを被うようにしてやさしく見守る夕焼け雲。そして、パオに生命力を与えるかのように光をふり注ぐ夕暮れの太陽。 「パーフェクト、完璧、完全…」
なぜか、突然、そのような言葉が心に浮かんできた。その瞬間の風景がまさにパーフェクトなものであると思えたからだ。足らないものもなければ、余計なものもない―――「それで十分」、そんな感慨を抱かないわけにはいかなかった。
撮影の後、私はパオに戻り、夕食までの短い時間、ゆっくりすることにした。しかし、横になって休もうとしたその瞬間、外から何やら美しい音色の音楽が聞こえてくる。 「今度は何だろう?」 横になりかけた身体をもう一度起こし、私は再びパオの外に出た。そして、音の聞こえる方向に歩き始めた。 すると、まだ残っている夕日を浴びながら盛んに馬頭琴の練習をしている若者の姿が目に入った。私はビデオを抱えたまま、彼のそばまで近づき、そのすばやい演奏に心を奪われながらも、ビデオを回した。 ところがである。彼は突然、ひくのを止めて、何やら聞き覚えのある曲を演奏し始めた。「さくら、さくら」だ。馬頭琴の透き通った音色が曲調にとてもマッチしている。 「なんで、この曲を知っているの?」 私は尋ねた。 「以前、日本人のお客さんにならったんです」 普段の生活ではあまり日本人を意識しない人でも、こういうところで日本の古い曲を演奏されると、とたんに故郷のことが思い出されるものだ。彼の奏でる「さくら、さくら」に日本人であることを改めて意識させられながらも、私はその細やかな心くばりに心のなかで感謝するのだった。 ★人と自然の大歓迎 この相撲が最後の余興と思いきや、そのあとの夕食の席で、新たなモンゴル体験をすることになった。昼間の楽団が、今度はわれわれのテーブルにやってきて、歓迎の儀式を始めたのだ。 やってきたのは昼間と同じ、馬頭琴の奏者が二人と歌い手の男女一組。さっき「さくら、さくら」を弾いてくれた彼もいる。 歌い手の二人が客に酒をすすめ、客は天と地に酒を振りかけ、そして最後は自分の額に酒をつけて、一気に飲み干す。酒は昼間に飲んだものとおそらく同じ。だが、さかずきが違う。昼間の小さいものとは異なり、銀製の立派なもので、かなり底も深い。 この歓迎式を盛り上げようとしているのか、外では先ほどから雷鳴のとどろきさえも聞こえてきた。熱帯のスコールのような大雨やひょうまで降っている。 「こんなもの一気飲みしたらロクなことにはならないだろうな」 そう思っているうちに、私のもとにも楽団員がやってきては、「イッキ、イッキ」と盛んに酒をすすめる。どうも断るわけにはいかないようだ。すばらしい演奏と歌声の声援を受けて、私はとうとうこの強い酒を一気に飲み干した。 「あっぱれ!」 まわりの人が一緒に、そう言っているようだった。 しかし、予想は的中。飲んだ直後から胃の中が猛烈に熱くなり、気持ちが悪くなる。さっきまであった食欲さえも急になくなっていくようだった。何とか、お腹のなかのアルコール分を薄めようと盛んにモンゴル茶を飲んだ。 「あああ、もうこんな酒、飲みたくない」 すると、楽団員のひとりがまたやってきた。もう一度、この儀式をやれといっているようだ。私は近くにいた白さんにお願いした。 「とてもじゃないけど、もうこの酒は飲めません。今度飲んだら、お腹をこわしますので、なんとか断ってください」 「でも、特別な席ですから、もう一度だけやってください。一口だけでもいいですから…」 頼みの白さんにそう言われては仕方がない。私は意を決して、再び立ち上がると、杯のなかの酒を手順に従って天、地、そして額につけ、一口だけ口にした。 「最後まで飲んでください」 楽団員がすすめるが、もうこれ以上、飲むわけにはいかない。このままいくと、ますます気分が悪くなり、「危険領域」に入りそうだ。 ふと、外の様子に意識を向けると、さっきまでパオの屋根を叩き壊さんばかりに激しく降っていた雨やひょうがもう治まっているようだ。だが、風は依然と強く、パオの壁の隙間から「ヒュ―、ヒュ―」という身体を凍らせるような音が聞こえる。 ようやく宴会がお開きとなり、私たちは外にでた。風のせいもあるだろうが、真冬のように空気が冷たい。しかし、空には満天の星。久しぶりの天の川だ。 「織姫と彦星の天の川ですね」
白さんがそう言っている。 特別の暖房器具はないものの、パオのなかはけっこう暖かい。早速、用意されているふとんを敷いて寝る準備を始めた。正直言って、あまりきれいなものとはいえない。洗濯もされていないに違いない。が、寝る側の自分だってそれほどきれいな身体とはいえない。シャワーのないこの大草原の生活では、これが当たり前なのだ。 私は、パオの上にきらきらと輝く星を想像しながら眠りにつき、この大草原での記念すべき一日を終えたのであった。
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