テクノスーパーライナー上海寄港
3月3日、「日本の造船技術の粋を結集した」と言われる高速艇テクノスーパーライナー「希望」が上海国際フェリーターミナルに入港した。
本船は2日の夜に長崎を発、約18時間の後、3日午後に上海に到着した。本航海は実験航海と位置付けられ、乗り込んだのは技術者・政府関係者等約30人。一般乗客は乗っていない。
5日は上海花園飯店で鈴木運輸政務次官等日本政府関係者、中国交通関係部門、在上海の日本企業駐在員等出席のレセプションが開かれた。
2785トン、全長74メートル、幅18.8メートルのテクノスーパーライナーは、45ノット(時速約85キロ)という高速航行が可能であり、今回の航海では長崎から揚子江口まで約1000キロをわずか12時間で走ってきた(揚子江に入ってからは高速航行ができないので、そこから上海港まではさらに6時間を要した)。
高速航行という観点のみならホバークラフトが上を行くが、1000トンの貨物積載もできる上(乗用車30台又はバス5台・乗用車10台積載可能)、荒れた海でも航行が可能というのがウリである。テクノスーパーライナーはホバークラフトと同様船体下部にスカート部分を持ち、その中の空気圧を上げ浮上することで高速を実現するが、後者は完全に浮上するため、波が高いとスカート部分と海面との間に隙間ができ、高い空気圧を維持できなくなってしまう。他方テクノスーパーライナーは、スカートの下の部分が水の中に残るので高い波でも航行が可能となるのだそうだ(ホバークラフトは空気圧のみで浮上するのに対し、テクノスーパーライナーは空気圧と浮力を使っていることになる。なお水中翼船は揚力と浮力)。
テクノスーパーライナーは1989年に国家プロジェクトとして研究開発が開始され、165億円の予算を投じ実験船として完成した。その後3億円で静岡県が購入、約22億円で改造・港湾整備がなされ、現在では災害対策船として、また夏季には清水−下田間の観光船として運航されている。
このスーパーハイテク船がなぜ上海にやってきたのか。長崎−上海に国際航路を作るというのは現実的とは言い難い。いくら早いと言っても18時間は旅客には長すぎる。東京、大阪等から長崎まで行く手間も考えれば利用者は相当に暇な人に限られよう。福岡から釜山への国際旅客航路も失敗であったと聞く。貨物便としては18時間というのは帯に短し襷に長しであろう。短時間の輸送を求められる生鮮野菜の輸送のためにも、いずれにしても冷凍が必要となるので高燃料費を出してまで(この船は極めて燃費が悪い)輸送する意味があるとは思えない。
「中国に売る」という考えでもないようだ。長江を疾走させれば長江流域の物流に大いに貢献しようが、時速85キロのテクノスーパライナーが長江を走るのは、南京東路(上海有数のショッピングストリート。一部が歩行者専用となっている)の歩行者の間をぬって大型トラックが走るようなものである。
関係者によれば今回の航海は純粋に実験が目的とのことだ。沖合いに出るのは初めてのことで、「高い波でも航行可能」というのを確認しようということだったらしい。
いかにも実験らしい話しを挙げると、テクノスーパーライナーは一度に170トンの軽油を燃料として積むが、1時間で9トンから10トン程度消費するので、今回は波がなく予定の12時間で揚子江口までくることができたが、もし悪天候でさらに数時間を要したら海の上を漂うことになったはずだ。乗船してきた人によると揚子江口につくまでは暖房が入れられず船内は寒かったそうだが、これは燃料節約のためだったのだろう。
マスコミが長崎から乗船したいという希望を出しても断られた模様だが、なにしろ初めての沖合い航海で、どのくらい揺れるか明らかではなく、船酔いした記者が批判的記事を書くのを避けるためだったのだろうか。
テクノスーパーライナー開発は研究開始から既に11年を経るが、こうした実験を重ねることにより、さらなる大型化と低燃費化を図り、将来は太平洋を高速で行き来する貨物航路の開設も視野に入れられている。
さて、今回の実験航海の費用だが、燃料費だけで往復約3200万円を費やした。さらに、本船は現在静岡県が所有しているため、そのレンタル費用が約1000万円。これら費用は補正予算より出されたようだが、 単なる実験ということならば、静岡から沖へ出て戻ってきても良かったわけであり、この苦しい国家財政の中で、なかなか贅沢な使い方ではある。
170トンしか燃料を積めないため、静岡を出た後長崎までの間に一度給油の必要があったが、その給油地としては二階俊博運輸大臣の地元である和歌山が選ばれ、寄港の際には盛大な式典が行われたという。
テクノスーパーライナーは、「浮力」「空気圧」の他、さらにもう一つの力を利用してはるばる上海までやってきたようだ。
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