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中国・知っておいたほうがいい法律知識

契約の締結


上海にある日系の法律事務所という仕事柄、日本の方が中国の企業や政府と契約を結びたいがどうすればいいのかという相談がよくあります。中国と日本の法制の違いや習慣の違いで、どの様に話を進めれば良いのかよく分からないからでしょうか。勿論中国特有の契約観や習慣等がありますので、日本と全く同じという訳にはいかないのは当然でしょう。そこで、日中の契約締結に際しての習慣の違いを先ず整理して、次に双方にとって有益となる契約をいかにスムーズに結ぶ様にするかを考える必要があります。ここでは最も異なる基本的部分としまして、契約観の違いに触れたいと思います。

日本と中国との契約に対する考え方は、かっての日本を思い起こして頂ければ理解しやすいのではないのかと思います。つまり、最近でもよく行われてはいますが、日本で知人同志等で約束を交わすとき、誓詞、覚書、念書といった類の書面を差し入れることが時々行われていました。通常は口約束ということもよくありました。これは人と人との約束事ということですから、勿論契約でありますが、誓詞、覚書、念書の類はこうした合意が行われたことを物として残すといったことに重点が置かれ、詳細な約束内容についてはあまり触れられないことが多いのが一般的でした。これは勿論約束をした人の信義、誠実さを前提としたもので、万が一トラブルが発生した場合には、話合いでその時に円満解決することを前提としたやり方です。つまり問題が生じたらその場その場で解決していこうという方法です。

ところが、欧米の契約観が大部浸透している現在の日本では、こうした旧来の契約習慣も勿論行われていますが、万が一トラブルが発生した場合の解決方法を予め約束しておこうという考え方に変わってきている様です。この考え方によりますと、契約をする時点で将来発生する可能性のある事態全てを想定して、それぞれの事態についてどの様な解決方法をとるのかを予め約束することになります。そこで、契約書も誓詞、覚書、念書といった簡単な内容の書面から詳細な書面となります。この違いは、旧来の契約観が、「走りながら考える。」という視点に立つものとすると、現在の契約観が、「走る前に考える。」という視点に立つものと言えるでしょう。

現在の中国はこうした日本で旧来行われていた契約観に似ているのではないでしょうか。彼等は契約を交わす際、メリットを強調しますが、デメリットについてはあまり考え様とはしません。これはトラブルが生じたらその時に考えて解決すれば良いというスタンスに立つからですが、日本で誓詞、覚書、念書の類を差し入れいたのとあまり違いはないように思われます。しかし、一番異なるのは、外形は旧来の日本の習慣と異なるところがないとしても、その前提が大きく異なるところです。つまり、日本の旧来の方法は既に言及した通り、トラブルについては、当事者同士誠意をもって円満解決するという暗黙のルールがあるのですが、中国の場合は、トラブルが発生した時に、そこで交渉、駆け引きを行い自分に有利な結論、合意に導こうという発想がどうも少なからずあるようです。いわば中国流の交渉術、契約観です。ですから現在日本で行われているような欧米流に近い詳細な契約を日中間で交わそうとすると、強い拒否反応を示すことがしばしば見うけられます。勿論、こうした方法に慣れていないということもあるのでしょうが、日本側の土俵に乗せられまいと本能的な防御をするのかもしれません。つまり、トラブルの場合の処理方法を詳細にきっちりと決めて後々これに拘束されることを嫌がるのです。

そこで、中国側との契約締結に際しては、相手方の習慣ややり方も組み入れることも必要ですので、ある程度の妥協、つまり契約の言葉をぼかしたり、敢えて必要な項目について合意をしないといったこともやむを得ないのかもしれません。勿論こうした場合も、予め絶対に譲れない部分を決めておき、この部分は譲るべきではないと思いますので最悪の場合は椅子を蹴る覚悟も必要でしょう。

ところが、往々にして日本側は契約締結のスケジュールをきっちりと決めていますので、交渉に時間をかける余裕がなくなることがしばしばあり、焦りから相手方のペースに乗せられてしまうことがあります。しかし、これは最悪の契約と考えられた方が良いでしょう。よく、合弁会社の事業が失敗して解散する時、全てを中国側に持っていかれたというトラブルを聞きますが、これも合弁契約を行う時に時間をかけずいい加減なところで妥協した付けと言わざるを得ません。日中の友好発展のためにもこうした不幸な結末は避けたいところです。中国側と契約の締結を考えられておられる日本の方は、日中の契約の差異を十分理解された上で時間的余裕を十分に持って契約に臨まれるべきでしょう。■

(2001年7月掲載)



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